精力剤を調べ始めて最初にびっくりしたのは、「スイカが血流によい」という話でした。 スイカ? と思って、そこから芋づる式に「精力によい」と言われてきた食品・植物の話を掘ることになって。 調べてみたら、意外と根拠があるものと、全然ないものが混在していて—— (これ、知ってたらもっと早く整理できたのに)と思いながら読み漁った記録です。

スイカと血流の話、これは本当にある

スイカを食べると精力が上がる、なんて昔ながらのジョークみたいに聞こえるんですけど、 実はちゃんと調べると科学的な理由があって。

スイカには「シトルリン」というアミノ酸が豊富に含まれています。 シトルリンは体内でアルギニンに変換され、一酸化窒素(NO)の産生を助ける経路に関わっています。 NOは血管を拡張させる働きがあるので、血流への影響が注目されている成分なんです。

泌尿器科学誌に掲載されたイタリアの研究(2011年)では、 軽症の性機能低下を抱える男性を対象にL-シトルリンを経口投与したところ、 プラセボ群の8%程度に対して、シトルリン投与群の約50%で勃起硬度の改善が報告されています(24名対象)。

ただし——ここが重要なんですが——スイカ1切れに含まれるシトルリン量と、 研究で使われたサプリメント量はまったく違います。 「スイカを食べるだけでOK」ではなくて、「スイカに含まれる成分が研究されている」が正確な話。 そこは後で詳しく書きます。

赤ワインとポリフェノール、血管への影響

「赤ワインは体によい」という話は、フレンチパラドックス(フランス人が脂肪の多い食事でも心疾患が少ない)から広まったもの。 赤ワインに含まれるレスベラトロールやポリフェノールが、血管内皮機能に影響するとされています。

血管内皮が健康であることは、NOの産生にも関係しています。 血流が維持できている状態というのは、精力剤の効きやすさにも関わってくる。

ただし赤ワインの話は「適量」が前提で、飲みすぎはテストステロン産生を抑制するというデータもあります。 アルコールは短期的にはリラックス効果があっても、慢性的な過剰摂取は性機能に逆効果になりうる—— 修正可能なリスク因子を大規模コホート(2,301名対象)で調べた米国の研究(2010年)でも、 飲酒習慣はEDリスクの修正可能因子のひとつとして挙げられています。

(正直、彼は赤ワインが好きで、最初はそれも関係するのかなと思って調べた。 適量ならまあ、という話ではあった)

プラセボ効果と精力剤、これは侮れない

精力剤の研究で気になるのが、プラセボ効果の存在です。 偽薬でも「効果がある」と信じることで、実際に変化が出ることがある。

マカ(ペルー原産の植物)のRCT研究(2009年、Andrologia誌掲載)では、 二重盲検の設計で試験が行われたんですが——プラセボ群でも一定の改善が報告されています。 「プラセボより上回った」という結果ではあるものの、プラセボ群にも変化があった、という事実が興味深い。

精力の問題は、心理的な要素と身体的な要素が複雑に絡んでいます。 「何か始めた」という安心感や、パートナーへの意識の変化そのものが、関係性に影響することもある。

だから「プラセボだったかもしれない」という見方をするより、 「なぜプラセボが効くのか」のメカニズムのほうが面白いと私は思っていて。 脳が「改善する可能性がある」と判断したとき、身体がそれに合わせて動くことがある、ということ。

古代から続く「媚薬文化」、カキ・トリュフ・チョコレート

「精力によい」とされてきた食品の歴史は長くて、古代ローマ・中世ヨーロッパから続いています。 カキ、トリュフ、チョコレート——どれも「媚薬」と呼ばれてきた。

カキは亜鉛を豊富に含んでいます。 亜鉛とテストステロンの関係は複数の研究で示されていて、 亜鉛欠乏状態ではテストステロン値が低下しやすいことが知られています(1996年、Nutrition誌)。 カキを「媚薬」と呼んでいた人たちは、理由は知らなくても結果的に理にかなっていた、ということかもしれない。

チョコレートに含まれるフェニルエチルアミンという物質は、 「恋愛中の脳の状態に似た作用がある」と言われることがあります。 ただし、チョコレートに含まれる量が実際に脳に影響するほどかどうか、という点では疑問が残ります。 「雰囲気が大事」という意味では否定しませんけれど。

トリュフについては、豚が発情期の牡豚のフェロモンに似た化合物(アンドロステノン)を含むという話があって、 それが「媚薬」と呼ばれた理由と言われています。ただし、人間への影響については科学的に確立されていない。

「精力食品」と「精力剤」は、含有量がまるで違う

ここまで読んでみて、「じゃあカキをたくさん食べれば?」と思った方も多いと思います。 私も最初そう思ったので正直に書きますが——

研究で効果が確認されている成分の量と、食品から摂れる量は大きく違います。

たとえばシトルリン。先ほどのイタリアの研究で使われた量は1.5g/日。 スイカ100gに含まれるシトルリンは約250mg程度と言われています。 研究量に達するには毎日スイカを600g以上食べ続ける必要がある、ということになります。

亜鉛でいえば、カキは亜鉛含有量が高い食品のひとつですが、 毎日数個を継続して食べるのはコスト・カロリー・アレルギーの問題もあります。 サプリメントはこの「量」の問題を解決するためにあるもの、というのが調べてみてからの理解です。

食品に意味がないわけじゃなくて、 「日常の食習慣として取り入れる」のと「研究水準の量を確保する」のは、別の話、ということ。

調べ女子のトリビア、少し彼への見え方が変わりませんでしたか

スイカからシトルリンへ、カキから亜鉛へ—— 古代の人が「体に効く」と感じていた食品が、現代の論文でひとつひとつ理由を持ち始めている、という流れが面白いんです。 「媚薬文化」って、長年の経験則が先にあって、科学が後からついてくる形、という見方もできる。

そしてプラセボの話。 「何かを試してみよう」という気持ちそのものが、関係性に変化をもたらすことがある。 先ほどのマカのRCTデータを思い出しながら、 「効果があった」という体験の一部には、意識が変わったことも入っているんじゃないか——そう思います。

精力剤を調べ始める前、私は「怪しいもの」という先入観で止まっていました。 でも論文を読んでみると、どこかに根拠があって、どこかに限界があって、正直に見えてくる。 この記事を読んだいま、「精力剤」という言葉の見え方が少し変わりませんでしたか。